研究紹介
森林生態学分野
教授准教授
特定助教 博士研究員 1名、博士課程 5名、修士課程 6名、四回生 4名 小野田雄介
辰巳晋一
青柳亮太 (S380, onoda.yusuke.6c@kyoto-u.ac.jp)
(S382, tatsumi.shinichi.4f@kyoto-u.ac.jp)
(S384, aoyagi.ryota.8e@kyoto-u.ac.jp) 森林生態系は、樹木を中心とする多くの植物、そしてその環境に生きる様々な動物や微生物によって構成されるシステムです。気候や土壌、地史などの環境要因と、競争や共生、食物網、人為的撹乱などの生物学的相互作用に依存し、多様な森林生態系が地球上には存在します。
森林生態学分野では、森林の持続的な利用、物質循環、多様な生物の生存戦略、生物多様性の創出
機構と維持機構、生態系保全など、様々な切り口から多様な森林生態系を科学し、世界一線の研究を
行っています。
森林の成り立ちの理解と応用
森林は、気候などの環境要因に影響を受けつつ、長い年月
をかけて、巨大な構造を作り
上げます。森林の成り立ちを
理解し、その知見を林業に生
かすことが1つの目標です。
調査では、ドローンやLiDAR
などの新技術もフル活用して
います。
よって、様々な形や生理機能
を見せます。そのような形質
多様性を定量的に評価する
ことにより、植物の巧妙な適応
様式を明らかにし、また植物
多様性を規定するルールを
解き明かします。
森林の変化を捉える
近年ますます深刻化する気候変動や人為撹乱の影響によっ
て、森林の構造や多様性は今
後どのように変化していくの
でしょうか?私たちは
フィールドワーク、全国規模の
ビッグデータ、統計モデリング
を総動員し、この疑問に答え
ようとしています。
生物多様性と生態系機能
複数の樹種を混植した林分では、それぞれの樹種を単植
した林分よりも平均して
一次生産性が高まる
「生物多様性効果」が生じます。
この生態学的メカニズムを
野外実験や森林動態
シミュレーションによって
紐解きます。
なぜ熱帯林は巨大で種が豊富か? 高い多様性・巨大な構造をも
つ熱帯林。実は生物に必須な
「リン」が土壌中に少ないとい
う特徴があります。生物たち
の生存をかけた適応とリンの
生態系内での動態を解明し、
このパラドックスの解決に
挑んでいます。
なぜ熱帯林は、木材伐採に脆弱なのか? 世界で最も生産力の高い
生態系である熱帯林。この常識
に反して伐採後の熱帯林の
回復は極めて遅くなることが
あります。このメカニズムを
解明し、人と森林の持続的関係
を構築するための「鍵」を探索
しています。
-光合成から生物多様性まで総合学問として植物多様性を俯瞰する-
地球上に存在する多種多様な動植物の体を構成する有機物のほとんどは、植物の光合成からもたらされます。植物が光エネルギーから有機物を合成し、その有機物を葉、茎、根、繁殖器官などに分配し、またその一部は昆虫などの動物が食べられ、さらに高次の動物に食べられていく…
そのような物質の流れの中で、多種多様な植物や動物が進化してきています。したがって、植物の物質生産のプロセスを深く理解することは、生態学において、非常に重要なことです。太陽光は植物にとってのエネルギー源であり、そのエネルギーからバイオマスに転換する効率(光利用効率)が、環境要因(水や土壌栄養、温度、CO2、風など)や植物種によってどう異なるかを理解することが重要です。植物は、環境の違いに対して、単に受動的に応答するだけでなく、表現型を変える(異なる表現型が自然選択される)ことによって、適応します。
植物は長い進化の歴史において、それぞれの環境で合理的な形質を持っていますので、そのような「合理性」を理解することによって、多様な植物の形も統一的に理解することが可能であると考えています。生物学だけでなく、化学や物理も含めて、生物多様性を、統一的、かつマルチスケールに理解したいと思っています
研究例-
- 光合成の環境応答や樹種による違い
- 葉の形質の多様性と共通性
- 樹木の成長に伴う光獲得・光利用戦略の変化
- 森林の資源量評価
- 森林の生産量の違いとそのメカニズム
- 植物の適応放散(ハワイ諸島におけるハワイフトモモの適応放散)
-植物の資源利用戦略から捉える生態系の長期維持機構-
樹木は、気候や土壌条件の違いに応じて様々な適応メカニズムを発達させてきました。また、森林に生息する、多様な土壌微生物や動物も栄養塩循環を通して、生態系維持に密接に関わっています。これらの適応や相互作用がなければ、森林生態系は維持されないでしょう。
森林生態系の長期維持機構を植物生理学、生物地球化学、生物多様性科学の総合的な知見と大胆なアプローチで研究するのが、「生態系生理学」です。土壌栄養の中でも、窒素とリンは特に2大栄養素ですが、このうち、植物が利用できる窒素は元々生物由来で、リンは鉱物由来です。したがって、この2つの元素の挙動は生物地球化学的に大きく異なります。植物が不足する栄養素を如何に獲得し、効率的に利用しているか、そしてそれによって生態系の物質循環がどのように駆動しているのかを明らかにしたいと考えています。
研究例-
- リン欠乏に対する熱帯降雨林樹木のリン利用効率化と適応
- 広域分布種に注目した根の機能の地域変異
- 石灰岩土壌に成立する植物群集の機能的な特徴
- 熱帯土壌のリン動態
- 森林伐採による地上部と地下部の変化
- 森林劣化傾度における土壌微生物と土壌栄養塩の関係
-樹木や森林生物の多種共存-
1つの森林は多種の樹木から成っています。特に、赤道付近にみられる熱帯降雨林は、1haに200種類以上の樹種がいることが知られています。樹木の種間に競争が働くと、優位な種が下位の種を排除し、多種の共存が成立しなくなってしまいます。
なぜ、多種の共存が成り立つのか?この問題は、長年にわたり、生態学者にとって大きな謎であり、挑戦的な研究テーマでした。これまでに多種共存を説明する数々の仮説が提示されてきました。私たちは、この長年の大きな問題に対して、新たな切り口を取り入れながら、多角的に取り組んでいます。樹木の高さ競争に伴う光獲得効率と光利用効率のトレードオフ仮説の提唱、土壌栄養塩傾度に沿った樹木の栄養塩利用戦略の棲み分けなどは、本研究室の主要な取り組みです。
研究例-
- 熱帯林の多種共存に関わる研究、植生解析
- 共存樹木の光獲得・利用戦略の評価
- 樹木の繁殖タイミングの違いと遷移に伴う種の交代
- 土壌微生物群集の組成と栄養塩動態
- カメラトラップによる熱帯哺乳類動物相の評価
-生産生態学の発展と林業への貢献-
生産生態学は、基礎科学の価値に加えて、林業や作物学などの全ての農業生産にも関わる応用科学としても重要です。この分野は日本が世界に誇る2つの主要概念があります。1つは生理生態学と生産生態学を融合した群落光合成理論(Monsi & Saeki 1953)、もう1つは集団生態学と生産生態学を融合した自己間引き理論(Yoda et al. 1963)です。この2つは今でも生産生態学の根幹部分を形成しています。基礎科学の面では、この2つの概念を深め、さらには植物多様性の要素も取り込み、生理生態学から集団生態学、さらには群集生態学までを繋げる統一概念として発展させることを目指しています。
また応用科学の面では、生産生態学の理論を林木育種や造林に生かすために、造林地での研究も重視しています。従来、作物のように容易に刈り取りができない樹木は、群落構造評価などで遅れていましたが、近年のレーザードローンの普及や解析技術の革新により、巨大な樹木や森林構造であっても、非常に正確に評価できるようになりつつあります。このような先端技術も取り入れて、生産生態学の革新を進め、林業にも貢献していきたいと思います。
References
- Monsi M, Saeki T. 1953. Über den Lichtfaktor in den Pflanzengesellschaften und seine Bedeutung für die Stoffproduktion. Japanese Journal of Botany 14: 22–52.
- Yoda, K., Kira, T., Ogawa, H., & Hozumi, K. (1963). Self-Thinning in Overcrowded Pure Stands under Cultivated and Natural Conditions. Journal of Biology, 14, 107-129.
研究例-
- 樹高の違いに伴う光獲得・光利用戦略の違い
- 天然林における自己間引き
- 針広混交林における混植効果
- スギの遺伝子型による成長の違いと樹冠構造との関係
- 広葉樹の樹形と生産性の関係
- 広葉樹造林試験
-熱帯林の持続的管理-
熱帯林では、過度の森林利用が進み、その持続性が危ぶまれています。このような差し迫った状況にあって、森林生態系の持続的管理を達成するために、「長い時間スケール」「広い空間スケール」「生物多様性の生態系維持機能」の3つ視点をもち、大きな時空間スケールで、森林利用による影響を最小限に抑える必要があります。
生物多様性は生態系維持に密接に関わっていますので、生物多様性を長期的に保証することが必要です。そのためには、生物多様性を評価する"ものさし"が必要になります。特に、広大な面積をもつ森林の生物多様性や炭素貯蓄などの生態系サービスを評価するために、リモート・センシング技術を取り込んだ新しい評価手法の開発が求められています。このような視点を持って、森林劣化・減少が急激に進んでいる熱帯降雨林において、現地政府機関やNGOと協力し、木材伐採と森林生態系の長期維持の両立を模索する研究プロジェクトを展開しています。
これまでに、インドネシア・東カリマンタン州やマレーシア・サバ州の生産林(木材伐採が行われている森林)を対象に400地点を超える植生調査プロットを設置・モニタリングを行っています。このように大規模に収集したデータを用いて、巨視的な時空間スケールでの生産林の構造や動態を解明する研究を行ってきました。
研究例-
- 森林伐採と生態系動態の関係
- 伐採後の森林回復(レジリエンス)の把握
- 森林伐採が標高傾度に沿った樹木の分布に及ぼす影響の解明
- ほ乳動物群集の多様性と分布の把握
- 持続的森林管理のための生物多様性モニタリングと指標化
- 持続的森林管理への衛星リモート・センシングの適用
この他にも多くの研究が行われています。興味がある方は、メールでご連絡ください。研究室見学も随時受け入れています。
