生態系生態学ゼミとは

このゼミは、発表担当者が興味を持った生態系生態学に関する最新で重要な論文を紹介するものです。

2012年度生態系生態学ゼミで取り扱った論文紹介

2012-07-04
論文タイトル:
"Fertile forests produce biomass more efficiently"
Vicca et al. (2012) Ecology Letters 15: 520-526

光合成によって同化された炭素は、純一次生産、もしくは呼吸のどちらかに分配される。純一次生産はさらに、葉/木部/根生産といったバイオマス 生産と、揮発性有機化合物(VOC)や根滲出物、菌根菌への炭素供給といった非構 造性炭素、という二つに分けられる。果たして森林は、光合成により獲得した炭素(総一次生産)を、「呼吸」「バイオマス生産」「非構造性 炭素」の3構成要素のそれぞれにどのような割合で分配するのだろうか?特に、土壌 栄養は、その配分にどのような影響を与えるのだろうか?本稿は、森林の最も根本的な炭素配分を、全球スケールのメタ解析から明らかにし た。

富栄養な森林は光合成産物の58%を、 貧栄養な森林は42%をバイオマス生産に配分していた。驚くべきことにこの割合 は、気候帯(熱帯/温帯/寒 帯)や森林タイプ(広葉/針葉/混 交)からは独立だった。では、貧栄養な森林は16%分をどこに使っているのだろう か?呼吸の割合が増加している訳では無いらしい。どうやら、非構造性炭素、特に菌 根菌への配分が増加しているらしい。これは、土壌肥沃度が低い森林ほど菌根菌量が多い、という多くの既存研究の結果と一致する。

このように本稿は、バイオマス生産効率(総一次生産に対するバイオマス生産 の比率)に関して新知見を示した。一方、気候や土壌栄養などの非生物的要因が、1)炭 素利用効率(総一次生産に対する純一次生産の比率)、2)バイオマス生産以外の各 要素間での炭素配分(呼吸/VOC/根滲出/菌 根菌)、3)呼吸内での炭素配分(維持/成 長呼吸や葉/木部/根呼 吸)にどのような影響を及ぼすのか? 4)本 稿では、樹体に貯留される非構造性炭水化物が純一次生産に含まれていなかったが、これは非生物的要因によりどのように変化するのか?など、ただちに多くの疑問が湧く。しかし、これらを明らかにするには、渦相関法による トップダウン・アプローチと生態学的手法に基づくボトムアップ・アプローチの両面からの共同研究が、広域の多数点で行われる必要がある。 これからの炭素動態研究に多くの示唆を与える論文である。

PD 今井伸夫

2012-07-25
論文タイトル:
The relative importance of above- versus belowground competition for tree growth during early succession of a tropical moist forest
Michiel van Breugel,Paulo van Breugel,Patrick A. Jansen,Miguel Mart?´nez-Ramos,Frans Bongers

隣接する植物間の資源獲得競争が2次遷移初期の種組成を決定していることが知られている。特に熱帯では光獲得競争が2次遷移において卓越した役割を果たしていると一般的に考えられているが、貧栄養土壌における2次遷移では栄養条件もまた非常に重要な役割を果たすとも言われる。そこで、本研究は熱帯の貧栄養土壌での2次遷移における光獲得競争と栄養塩獲得競争の相対的な重要性を明らかにすることを目的におこなわれた。
本研究では、光獲得競争は非対称的で、栄養塩獲得競争は対称的であるという違いに基づき、対象植物とそれに隣接する植物の成長が非対称的な関係ならば地上部の競争が重要であり、対称的な関係ならば地下部の競争の方が重要だと仮定した。結果、貧栄養土壌条件において、隣接する植物同士は非対称的な関係を示していることが分かり、貧栄養条件において光獲得競争の方が重要だと結論付けた。
この研究の面白い部分は地下部を一切調べずに、地上部と地下部の競争を比較したという手法の大胆さだと思う。怠慢なだけだという意見も出たが、個人的には支持したいところである。しかし、研究としての信頼性を担保したいならば、地下部の状況も調べておくべきだったと言える。
また、セミナーの中で本研究と関係のある論文としてCompetition from below for light and nutrients shifts productivity among tropical species(John J. Ewel et al.2008)が挙げられたが、この研究では、常緑樹と落葉樹の光獲得競争において下層植生から受ける影響の程度が異なることを明らかにしている。2次遷移の植物の動態を理解する上で重要な示唆をするものであるため、この場に補足的に追記しておく。

M1 藤木庄五郎

2012-06-20
論文タイトル:
A link between plant traits and abundance: evidence from coastal California woody plants
William K. Cornwell and David D. Ackerly 
Journal of Ecology 2010, 98, 814-821

生態学では、なぜある種が頻出し他の種が希少になるのか長い間、課題にされている。このメカニズムを解明するために、中立仮説とニッチ仮説がが論争をくりひろげている。この論文では、形質が種の豊富さに影響しているのではないかという中立仮説を否定する主張である。  方法としては豊富さを樹木の被度で評価し、SLA(葉の面積/葉の重さ)や樹高、導管などの11種類の形質を調べ、形質が豊富さに相関関係があるかを評価する。またその関係は異なる空間スケールや異なる環境によって変化するのかも評価する。  結果としては大規模スケールでは相関関係はなかったが、プロット規模ではある形質では相関関係があった。また、ある形質は環境によって豊富さとの関係性が変化するものもあり、興味深い結果となった。この結果は形質が豊富さに影響するという説を支持し、中立仮説を否定する証拠となった。  形質が生態系の構成に影響するという内容は面白かった。手法が複雑で理解しがたいが、結論はわかりやすかった。調査地の問題でバイオマス量が測れなくて、豊富さの指標が被度で大まかに6分類せざるをえず、取る点が大雑把になってしまっているところは改善の余地があるかもしれない。

B4 野村祐紀

2012-06-13
論文タイトル:
Increasing feldspar tunneling by fungi across a North Sweden podzol chronosequence.
Hoffland E, Giesler R, Jongmans T, Van Breemen N
Ecosystems 2002, 5:11-22

亜寒帯林の土壌では,長石などの造岩鉱物中に菌根菌の菌糸によって形成されたと考えられる直径数μmのトンネル構造が見られる。これは菌類による鉱物風化を決定的に示しており,このような菌類はRock Eating Fungiと称されるなど,菌類による直接的な鉱物の風化作用は1990年代に話題となった。しかしながら,菌根菌のその風化作用が生態系レベルでの役割について明らかにした報告は少ない。本論文は,ポドゾル土壌の年代系列に沿った森林で長石に見られるトンネル構造の頻度を計測し,土壌風化にともなうトンネル頻度の増加傾向とそのメカニズムについて議論している。
本論文の結果から,土壌年代が古くなるにしたがって長石のトンネルの頻度は高くなり,増加パターンは土壌年代4000年頃から指数関数的な増加を示していた。このトンネル頻度が急激に増加する年代までのタイムラグやタイミングについて,まず,物理的な風化によってトンネルが出来はじめるEtch pitといった微細な亀裂が形成されるまでの風化に必要な時間であること,さらに,この年代には利用の容易な無機栄養塩(K,Ca)が涸渇することでトンネルの増加が促進されることを説明として挙げている。もし,この仮説が正しければ,菌根菌は栄養が制限的な環境に適応しており,年代生態学的にとても重要な働きを担っていると言える。しかし,それらの仮説をより裏付けるには,各年代の土壌栄養状態やトンネル形成している菌根菌の定量などもっと直接的なデータが必要であるが,本論文にはそのデータが掛けておりとても残念に感じた。ともあれ,生態系における外生菌根菌による鉱物風化の役割を示した数少ない報告であることは確かである。

PD 岡田慶一

2012-05-16
論文タイトル:
Changes in coexistence mechanisms along a long-term soil chronosequence revealed by functional trait diversity
Norman W. H. Mason, Sarah J. Richardson, Duane A. Peltzer, Francesco de Bello, David A. Wardle and Robert B. Allen 
Journal of Ecology 2012, 100, 678-689

形質の機能的多様性を用いて、植物群落の種の共存メカニズムを表わすことができると言われている。しかし、森林群落において、資源利用戦略に関する葉の形質の機能的多様性が、土壌リンの減少に伴ってどのように変化するのかを評価した論文はほとんどなかった。この研究では、ニュージーランドの冷温帯多雨林の異なる土壌年代プロットにおいて、葉の4つの機能形質(窒素濃度、リン濃度、厚さ、密度)と土壌リン濃度との関係を検証している。そして、機能的多様性の指標であるRao`s quadratic entropyを算出し、機能的多様性と土壌年代の関係を評価している。
結果として、土壌年代の増加に伴う土壌リンの減少にしたがって、葉の窒素とリン濃度は減少し、葉の厚さと密度は増加することが観察された。また、期待値と比較したRaoの値から、土壌リンの減少に伴って機能的多様性が収斂することが示された。これらの結果は、肥沃な環境では、優占種は様々な資源利用戦略をとるが、土壌栄養の減少に伴い、資源保持戦略へと収斂していくことを示している。したがって、肥沃な生態系では、光に関するサイズ非対称的競争のために、資源利用戦略の分化が種の共存に必要とされるが、貧栄養では、栄養に関するサイズ対称的競争が、同じような資源利用戦略での共存を可能にしていることが示唆された。
この研究では、機能的多様性の放散と収斂が土壌栄養と関係しているという考えが興味深い。また、機能的多様性の指標を用いて共存メカニズムの変化を表した点は参考にできると思う。しかしながら、4つの形質データからしか機能的多様性を評価していないので、他の形質も含めて考えることが必要だと思う。

B4 辻井悠希

2012-05-9
論文タイトル:
Below-ground secondary succession in tropical forests てof Borneo
Francis Q. Brealey
Journal of Tropical Ecology (2011) 27:413-420

 熱帯地方における焼畑放棄後の二次遷移について地下部から考察を行った論文。地 下部の根に注目してみると、根は様々な機能を有していて、根は森林生態系を構成す る大切な要素の一つであるといえる。そこで、二次遷移途上における栄養塩の循環を 明らかにするために根と土壌の関係を理解する必要がある。これまで根について放棄 後時間経過と共にバイオマスが増加していく、あるいはほとんど変化がないといった 様々な研究が報告されている。また土壌の栄養状態と細根バイオマス量には負の相関 があるといわれている。二次遷移途上で土壌栄養状態が根の量や栄養状態に影響を及 ぼす可能性が考えられ、本研究では二次遷移途上の各時点の根の量と栄養状態を明ら かにした。

 結果として、本調査地では二次遷移途上で細根が急激に再成長し、その後はあまり 変化がなかったことから、細根のバイオマスに対して地上部の攪乱は長期間影響を与 えないとした。また、本研究の二次遷移途上の森林で土壌中のN濃度が細根量を強く 制限する要因であったことから、Nがボルネオ島中央部の二次林において成長を制限 をする要因であるということが示唆された。

 本論文はシンプルにまとめてあり、各時点での細根の量があまり変化がないという ことは興味深かった。細根中の養分濃度についての結果を示していたが、全体的に通 常よりも濃度が低いという印象を受けた。またここではNが制限をするとしている が、より細かく栄養塩をみる必要があるのではないかと考えられる。具体的にはNな らば植物が吸収できる状態である無機態Nの濃度を調べてみることもいいかもしれな い。このようなテーマでまだまだ深く掘り下げられると思った。

M1 西尾尚悟 ☆☆★

2012-04-25
論文タイトル:
Terrestrial phosphorus limitation: mechanisms, implications, and nitrogen-phosphorus interactions
P.M.Vitousek, S.Porder, B.Z.Houlton, O.A.Chadwick (2010)
Ecological Applications, 20(1) 5-15

 森林の一次生産やその他生態系プロセスのなかでリンや窒素などの栄養塩制限の重要性について、あらゆる陸域生態系において示されてきた。窒素とリンはなかでも特によく知られた制限元素である。この論文では栄養塩制限パターンの基となっているメカニズムを特にリンに着目し、窒素制限メカニズムとの関係性や相互作用から特定し評価している。

 陸域生態系においてリン制限を引き起こしうるメカニズムには、生態系のリンの枯渇によるもの、土壌の物理的阻害によるもの、他栄養塩とのやりとりの中で相対的に起こるもの、低リン含有母岩によるもの、リンシンクへの蓄積、人為的変化によるものの6つが考えられる。一方の窒素に関しては、要求度依存から引き起こるものや窒素固定への制約によるもの、他栄養塩との相対的な制限、シンク蓄積等が存在する。多くの研究により見出されたこれらのメカニズムを、至近的栄養塩制限(栄養塩の施肥が生物学的作用、特に生産が活性化される)と究極的栄養塩制限(栄養塩の施肥により生態系を変化させうる)とを区別して考察している。

 栄養塩制限メカニズムを理解することには、少ない実験によってその栄養塩がどこで、なぜ制限要因となるかを知ることが可能となるという意義がある。窒素とリンの両方について生態系全体のバランスから制限要因を理解することが究極的制限資源を知るために大切である。

 この論文では、リンと窒素がともに生物に必須でありながらその起源や動態が対照的であることから、一方が十分に存在しても、もう一方は供給が不十分になりうることを明記している点が興味深い。また、リンの制限についてはこのように総合的に説明した論文はなかったという意味で、重要であるといえる。

M1 池田 千紘

2012-04-18
論文タイトル:
Field-scale evaluation of effects of nitrogen deposition on the functioning of heathland ecosystems
A.G. Jones and S.A. Power (2012)
Journal of Ecology 100, 331-342


貧栄養な土壌に適応した植物は、窒素沈着の影響を受けやすい。窒素沈着が植物へ及ぼす影響は、これまでに多くの操作実験がされてきたが、野外の生態系における影響を見たものはほとんどない。この研究では、イギリスのヒースの32サイトにおいて、窒素沈着と、植物・土壌の栄養塩動態および微生物酵素活性の関係を調査した。

その結果、窒素沈着率と、Calluna(ツツジ科エリカ属)のシュート・リター、土壌の窒素とリンの濃度に相関が見られた。窒素の加入の多いサイトで、植物と土壌のリン濃度が上昇していることから、窒素はリンの可給性と吸収率を増加させることを示している、と考察されている。

窒素沈着量と土壌リンの関係は、土壌リンの濃度が1オーダー大きい地質の結果による影響が大きく、この地質の結果を除くと、窒素沈着量と土壌リンの間に相関は見られない可能性が高い。このことから、窒素加入の増加が、リンの可給性と植物のリン吸収を増加させるという考察は、妥当であるとは考えづらい。しかしながら、窒素沈着という人為的な窒素の加入が、植物・土壌の栄養塩動態を変化させており、生態系に大きな影響を与えているという結果は、重要であると考えられる。

M1 市塚友香