生態系生態学ゼミとは

このゼミは、発表担当者が興味を持った生態系生態学に関する最新で重要な論文を紹介するものです。

2011年度生態系生態学ゼミで取り扱った論文紹介

2011-07-08
第9回 市塚
論文タイトル:
Effect of tree species and topography on soil chemistry, litter quality, and decomposition in Northest Turkey
Sariyildiz et al. Soil & Biochemistry 2005

リター分解に影響を及ぼすものとして環境条件、リター量、リターの化学組成がある。また、地形によって森林環境、土壌特性、種組成、生産性がそれぞれ変化することが知られている。しかし、地形による分解の変化、地形によるリターの質の変化を見た研究は少ない。この論文では樹種、斜面の向き、斜面の位置による土壌科学特性、葉リター特性、分解速度への影響を見ることで、葉リター特性が分解に及ぼす影響を評価した。

結果として、地形による分解速度の変化とリグニン濃度の変化が一致しており、その関係はより貧栄養なサイトで高いことが分かった。このことから、分解は生物的および非生物的影響を受けるものの、リターの質が初期の微生物分解の速度を決定している、と考察している。

この研究における斜面は、上部と下部の標高差が大きく、また斜面の勾配が非常に急であり、一般的な地形の変化を見ているとは言い難い。しかし、森林の環境によって葉の化学組成が変化し、また、そのリターの質によって分解速度が変化するという相互関係が存在し、その相互関係により栄養サイクルが変化している可能性を示唆した点で、興味深い論文である。

B4 市塚 友香

2011-07-08
第8回 西尾
論文タイトル:
Soil carbon dynamics under young tropical secondary forests on former pastures-A case study from Panama
Luisa Neumann-Cosel, Beate Zimmermann, Jefferson S. Hall,Michiel van Breugel, Helmut Elsenbeer: Forest Ecology and Management 2010

熱帯林は大規模な炭素を貯蔵していることが知られているが、特に土壌部分は地上バイオマスの約三倍もの炭素を貯蔵しているといわれている。また熱帯地方においては農耕地放棄後の二次林が土地被覆の優先的な形態の一つとなってきている。今回の論文ではこの二次林と土壌炭素貯留量の関係について注目をしている。
SOC(土壌有機炭素)に対する二次林の発達の影響はまだあまり知られていない。二次林の年数が増すにつれて炭素貯留も増加していくという報告がある。一方で土壌炭素と二次林の年数に何らかの関係を見いだせないという報告もある。これらの矛盾というのはSOCの貯蔵をコントロールするいくつかの変数の相互作用によって引き起こされていると考えられる。そのため土地利用と土壌炭素の貯蔵との明確な関係を決定するためには、混在する変数を制御するサンプリングデザインが必要となる。そこでこの研究の目的としては牧草地から最初の15年の二次林の時間変化に伴うSOCの貯蔵を調査し関係を明らかにすることにある。この際、森林の年齢の貯蔵に対する影響を量化して、他の混在した変数の影響は最小化する。
結果として牧草地から放棄後15年の二次林においてSOC貯留量のはっきりした変化は見られなかったことから、この調査地では牧草地から二次林への遷移や遷移初期段階は、SOC貯留量にははっきりとした影響を及ぼさないということがわかった。
この論文の結果としては、SOC貯留量に変化は見られなかったということでまとめているが、そもそもSOC濃度と土壌容積密度の値を用いることでSOC貯留量は求められている。この二つの値を掛け合わせるとその値に変化は見られなかったが、それぞれの値を単独で見てみると牧草地から二次林へと移行したり、遷移初期段階においては明らかな変化をしていた。このことに着目してみたらこの研究はより一層興味深いものになるのではないだろうか。また調査地の規模が大きいだけにまだまだ興味深い研究は可能であるように感じられた。 B4 西尾 尚吾
2011-06-15
第6回 田和
論文タイトル:
Slow decomposition of lower order roots : s key mechanism of root carbon and nutrient retention in the soil
Pingping Fan Dali Guo Oecologia 2010

今まで細根は直径2mm以下として定義されてきたが、近年その細根のなかでも分枝位置によって機能が異なることがわかってきた。 そのような分枝位置を反映した、次数根という考え方が提唱されている。 この次数根の特徴は、次数が低いほど、直径が小さくN濃度が高い、寿命が短く二次成長しにくいということがわかってきた。 そのため次数が小さいほど分解速度は速くなると考えられてきた。 この論文は本当にこの現象が起こるのかどうかを、検証した初めての論文である。

結果としては、予測に反して低次数根ほど分解速度が遅いという傾向を示した。 この理由を筆者たちは、低次数根ほど易分解性成分が少ないこと。 かつ微生物の利用できるCが少ないにも関わらず低次数ではN量が多いため、これがさらに微生物のC利用可能性を低くしていることを指摘している。

このような結果は、寿命が短く、生産性・枯死率が非常に高い根のほうが分解しにくいということを示している。 これは、土壌中に含まれるSOMの形成に、細根は考えられてきた以上に寄与していることが示唆される。 この実験を通して、より詳細に調べていくことによりSOMの形成について新たな事実がわかってくるかもしれない。
D1 田和 佑脩

2011-05-25
第6回 今井
論文タイトル:
Stoichiogenomics: the evolutionary ecology of macromolecular elemental composition
Elser JJ, Acquisti C, Kumar S. Trends in Ecology and Evolution(2011) 26 (1): 38-44

「Stoichiogenomics」は、「生物化学量論」と「ゲノミクス」を掛け合わせた、著者 らによる造語である。本稿では、近年のゲノム研究の進展とともに明らかになってき た、モデル生物の核酸・タンパク質における生元素(本稿では主に窒素N)の驚くべ き利用パターンについてレビューしている。核酸の5つの塩基間および20個のアミノ 酸間には、含有するN原子の数に差がある(例: アデニンはN原子5個、チミンは2個な ど)。N制限下で進化してきた生物群では、N利用コストが下がる方向、つまりN原子 数が少ない核酸やアミノ酸を相対的により多く利用する方向に自然選択がかかってき た可能性がある。この予測を裏付ける例として、・微生物は、N制限下ではN-richな アミノ酸の割合を減らす。 ・動物よりも植物(N制限をより頻繁に受けてきたと考え られる)のほうが、RNAやアミノ酸のN量が低い。 ・栽培植物やN固定植物(N制限を 受けてこなかったと考えられる)の方が、その他の植物よりもアミノ酸のN量(N原子 数/側鎖)が高い。などの研究結果が示されている。また、RNAにおけるN利用の節約 は、ヌクレオチドの組成変化(N原子数の少ないヌクレオチド比率の増加)だけでな くヌクレオチドの数の減少によってももたらされると考えられる。そして実際、・植 物は、動物よりもヌクレオチドあたりのN原子数が少なく、平均エキソン長も短い、 ことが示されている。このように本稿は、核酸/アミノ酸レベルに及ぼす栄養塩制限 の影響をまとめ、資源制限に対する生物の適応について新たな視点を持ち込んでい る。今後メタゲノミクス研究が進むにつれ、モデル生物以外の生物でも栄養塩制限に 対する驚くような適応が明らかになっていくのだろう(著者らは、栄養塩可給性の異 なるサイト間、例えばchronosequenceサイト、浅海vs.深海、植食vs.肉食動物の腸内 における微生物群集のメタゲノム比較研究の有効性について論じている)。
PD 今井 伸夫

2011-05-25
第5回 溝口
論文タイトル:
How does light and phosphorus fertilization affect the growth and ectomycorrhizal community of two contrasting dipterocarp species?
Brearley et al. Plant Ecology (2007) 192:237-249

東南アジアの低地常緑雨林の高度に溶脱した、貧栄養の土壌において優占しているフタバガキは、光と栄養塩に加えて、植物にとって利用可能な栄養塩を増加させる外生菌根(EcM)との関係を健全な更新に必要とする。しかし、これら三つの要素は緊密に関係している可能性があり、また、それらの相互作用はまだ分かっていない。そこでこの研究では、フタバガキ種の中でも光要求的な種(Shorea leprosula)と、耐陰性の種(Hopea nervosa)の苗木の、光条件の変化とP増加に対する成長応答と外生菌根(EcM)菌群集の応答を、ポット実験で観察した。
光条件の変化に対する応答として、Hopeaは低光条件下でより高い成長を示し、Shoreaは高光条件下においてより高い成長を示した。また、P施肥に対する応答として、ShoreaはP施肥に対して葉内P濃度と成長速度の増加を示した。一方で、HopeaはPの吸収を増加させず、成長速度も増加しなかった。EcM菌の応答としては、総 EcM形成率とEcM群衆の多様性は光とPのどちらの処理にも応答しなかったが、ECM形態型の約半分で非生物的処理への個別の応答がみられた。

過去のフタバガキ施肥実験の多くが、苗木の成長に影響するだろう、光条件と、樹木の光要求度の違いに関して詳細な考察を行なっていない。この論文では栄養塩増加と光条件の変化の両方に注目し、樹木の光要求度によって各処理に対する応答がどのように異なるのかについて研究をおこなっており、その点で重要だと言える。
M1 溝口 佳祐

2011-05-18
第4回 吉田(日)
論文タイトル:
Latitude,solar elevation angles and gap-regenerating rain forest pioneers
C.H.Lusk,K.Sendall,R.Kooyman Journal of Ecology(2010)

熱帯雨林には高緯度の森林よりも多くの種に富んだ植物群集が存在する。 その原因としては気温や生育期間が長いことなど様々な理由が考えられる。 この論文では熱帯、亜熱帯雨林において遷移初期だけでなく遷移後期の森林 の倒木ギャップにも侵入するtall pioneerが中緯度地域においては侵入できない 理由について緯度と太陽高度に着目してY-plantを用いて調べている。

結果としては光要求性が高く、光合成能力と成長速度の速いtall pioneerは100uと300uの 倒木ギャップにおいて曇天時ではどちらのサイズでも低緯度から高緯度になるにつれて炭素獲得能が下がり、ギャップの中央のほうが端よりも光受容や炭素獲得能が大きく、 小さいギャップすべてと大きいギャップの緯度42°の時負の値を示し侵入できないことを表した。 これは、緯度が低い場所では太陽高度が高いためである。 また、晴天時にはPARよりも日平均直達光時間に影響を受ける。これは十分な光が供給されると それ以上強い光には相応の炭素獲得増加は起こらないためである。また小さいギャップでは中央部よりも 南端部において太陽の入射角により直達光を受ける時間が長くなり炭素固定能も上がった。 これらのことから太陽高度が代謝速度の速いtall pioneerがその生育に適した光環境が不十分な遷移後期の 中緯度雨林に侵入するのを妨げていると言える。

この論文で言われているtall pioneer種はかなり特異的に光要求性が高く光合成能力が高いものであるが 他の種に関しても緯度による光環境の違いがギャップ更新に影響を及ぼしているのではないだろうか。
M2 吉田日和

2011-05-11
第3回 安藤
論文タイトル:
What drives retrogressive succession:Plant strategies to tolerate infertile and poorly drained soils.
Gaxiola,McNeill,Coomes. Functional Ecology (2010)

一次遷移が始まった生態系は土壌の堆積や窒素の蓄積によって次第にバイオマスが増加していくが、百万年オーダーの時間が経過すると森林が縮小していく退行遷移という現象が知られている。この退行遷移を引き起こす原因の一つとして、生態系内の可給態リンが減少することが多くの研究によって示されているが、同時に土壌の排水性の低下が森林の縮小に寄与していることが指摘されている。 この論文では、貧栄養と過湿条件を組み合わせた栽培実験を行い、樹木実生の成長・生存・形態にそれぞれのストレスがどのように影響を与えるかを調べた。

結果として、貧栄養と過湿条件の両方が成長と生存に負の効果をもたらしており、特に二つのストレスが同時に起こることで植物にとってより不適な環境を作り出していることが分かった。また、一般に貧栄養と過湿ではしばしば逆の形態的な適応を見せるが、本実験では2つのストレスの相互作用によって植物の形態に複雑な応答を示すことが明らかになった。さらに、これらの応答は、樹木種の本来の生育環境によってある程度グループ分けされた。

この論文は過湿条件が退行遷移に寄与している可能性を支持し、また退行遷移が起こっている森林の種にも典型的な貧栄養耐性種の性質を示さないものがいることが明らかになったことが重要だったといえる。今後、リン制限によって退行遷移が起こっているとされる森林において、過湿条件の寄与を再評価することが必要だろう。
M1 安藤聡一
2011-04-27
第2回 青柳
論文タイトル:
Nitrogen and phosphorus additions negatively affect tree species diversity in tropical forest regrowth trajectories
Siddique et al. Ecology (2010)

「生態系の貧栄養化/富栄養化が植物の種多様性にどのように影響するか」について近年注目が集まっています。2005年Nature誌で温帯の草原生態系において、Nの添加によって種多様性が減少することが示されました。

一方今回紹介した論文は、温帯草原よりも遥かに多様な種プールを持つ熱帯生態系の耕作放棄地で、2次遷移期間にN,Pが増加することが多様性の回復に与える影響を実験的(施肥+6年間追跡)に調べています。 施肥によって、群集内の一部の種の成長が促進され種多様性(の増加量)が減少すること、N,Pを同時に施肥すると単独の施肥よりも多様性への影響が小さくなることを発見しました。

施肥サイト間の初期のばらつきが大きく、解析が複雑で解釈に苦労しましたが、熱帯で施肥実験の多様性への影響を調べた研究は他に例がなく、栄養塩(N,P)が多様性に与える影響とそのメカニズムを知る上で重要な論文と言えます。
D1 青柳亮太
2011-04-18
第1回 日高
論文タイトル:
Allocation of foliar phosphorus fractions and leaf traits of tropical tree species in response to decreased soil phosphorus availability on Mount Kinabalu, Borneo.
Hidaka and Kitayama. journal of Ecology (2011)
PD 日高周