これまで、生物多様性の保護は保護区の中だけで考えられてきました。しかし、保護区の面積は限られています。ボルネオを例に取ると、貴重な生物はその多くが保護区外の熱帯林に生息しています。貴重な生物が最も多く生息する、保護区外に存在する熱帯林が「生産林」です。生産林は木材を合法的に生産するための自然林です。図のように、ボルネオ島の半分が生産林で覆われているとみられています。


ボルネオ島の熱帯林の樹木多様性はとても高く、高価な木材の原木となる種から木材としては不向きな種まで様々な樹種が1つの森林の中に生育しています。このため、熱帯林での木材生産は、「択伐」と呼ばれる、商業的に貴重な樹種のみを抜き切りする方法で行われます。適切なレベルの択伐が行われると、残された樹木を中心に森林が再生していき、生物多様性も一定のレベルに保つことができます。しかし、これまでは短期的に利益を追求するあまり、適切なレベルの択伐がおこなわれることはほとんどなく、生産林はほとんど例外なく荒廃してしまいました。このため、生物多様性の保全も極めて難しい状態にありました。



satellite image analysisこれに対して、森林生態系を長期的に維持しながら、資源を枯渇させることなく木材を生産する試みが熱帯でも始まりました。これが「持続的森林管理」と呼ばれる手法です。さらに、「低インパクト伐採」と呼ばれる、計画的かつ環境配慮型の伐採方法が考案され、一部の木材生産林に導入されています。そこでは持続的森林管理と低インパクト伐採の導入により生物多様性の保全効果が高まることが、私たちの生態学研究から明らかとなっています。




satellite image analysisこれまでの環境に配慮しない従来型伐採に比べると、低インパクト伐採ではより大きなコストが発生します。このコストを補う制度として、「森林認証(Forest Certification)」への期待が集まっています。森林認証とは、木材生産の現場である森林生態系や森林管理に関わる人々の社会が持続的であると診断された場合に発行される、木材の認証です。認証された木材は環境負荷を嫌う消費者に歓迎され、認証されていない木材はやがては市場から駆逐されると考えられています。しかし、市場での認証材の優位性は非認証材に比べて高くはなく、生産者にとって森林認証を受ける経済的な魅力が少ないことから、森林認証は熱帯林にはまだそれ程浸透していません。このため、熱帯生産林の荒廃がこれ以上進まず、貴重な生物が保全されるかどうかは、予断を許さない状態です。

私達が開発している「生物多様性の可視化」技術は、東京都の大きさ(あるいはその半分)程度の熱帯林(生産林)を対象とし、生物多様性を樹木種の構成比率に基づいて指数化し、算出した指数を全域においてデジタル地図として示すものです。現在、環境省の環境研究総合推進費の支援を受けて、実装に向けた研究を展開しています(プロジェクト課題番号 1-1403)。